は青春学園中等部1年生。 男子テニス部のマネージャーをしているは、 テニス部1年で従兄弟の英二と一緒にスポーツ店からの帰途だった。 「んじゃまた明日、学校でね〜ん♪」 人通りが少ない十字路。 はいつもここから一人きりの家路につくのだった。 「ん、じゃーねー」 彼女にとってこの長い一本道は少し憂鬱な道だった。 両脇が木々に固められ、この時期は特に蝉の声が煩い。 日差しが遮られるうえに風通しはいいので七月末でも割と涼しいのだが、 夕方になると真っ先に暗くなるので子供には少々危険な道でもある。 「もう六時かぁ…急がないと、そろそろあいつらが動き出す時間だな」 この辺りは夜になると不良が活動し始める。 実際も部活帰りに何度か見かけたことがあった。 不良といっても近所の中学生達で、 昔から男勝りだったにとってはさほど怖いものでもない。 だがその気の強さからか中学に入ってからずっと目の仇にされ、 遇えば面倒なことになるのは必至だった。 丁度この道の中腹まで来たところだろうか、向こう側からニ、三人の喋り声が聞こえた。 にはすぐに奴等だと判った。 「おー、じゃん!なんだよまた菊丸とデートだったのかぁ?」 「従兄弟だからって仲良すぎじゃねぇ?」 「どこまでいってんの?どうせ近親相姦だろ!」 また始まった。もう耳タコのフレーズ。 「近親相姦の意味解かってんの?使い方間違ってるよ。」 もはっきりは知らなかったが、感覚で適当に言っただけだった。 だがそれが結構効いたらしく、一人の眉がピクリと動くのが見えた。 「マジうぜぇんだけど。ガリ勉野郎!」 「お前実はガリ勉も解かってねぇんじゃねぇの?」 今度は他の一人の口が曲がったが、構わず続けた。 「ま、お前らから見れば誰でもガリ勉なんだろうねぇ。……っ!」 突然一人が唾をかけてきた。 負けじと殴りかかるが、所詮は男と女、体力の差は歴然である。 そのうえ三対一では相手にもならない。 一方的にやられるばかりであった。 二、三分もしただろうか、丁度今迄で一番強い拳が腹を直撃したとき、二台の自転車が走ってきた。 「やっべ!サツだよサツ!!」 「チャリ二台かよ!?セッケー!」 「おい!骨が折れないように手加減してやったんだからな!誰か来ても何も言うんじゃねぇぞ!!」 そう叫びながら三人は走って行った。 ―ってぇ…言うわけねぇだろ、こっちだって面倒は御免だ…― 「おい君、大丈夫か?」 片方の自転車に乗っていた警察官が少し苛立った様子で聞いてきた。 「はい、お腹が痛くなっただけですので、もう大丈夫です」 いかにも元気を取り戻したような声で言った。 「しかし…」 「おまわりさん、なんか俺の見間違いだったみたいッスねぇ。 本人も大丈夫だって言ってるし、俺が家まで送って行きますよ」 警察官だと思っていたもう一台の自転車は、ランニングを着た真っ黒な髪の男の子だった。 背はと同じぐらいで年もあまり変わらないようだが、初めて見る顔である。 少年と警察官は暫く怒ったり謝ったり説得したりを続けていたが、とうとう警察官が折れて去って行った。 「あの…」 「あ、大丈夫か?歩けねぇんだったら乗せてやるよ!」 「いや、大丈夫…です。ぇと、お助けしてくれて有難う御座いました…か?」 普段から口が惡いだが、年上には敬語で喋るように昔からしつけられている。 だが年の判らない人と喋るといつもこうだ。 年上だと判っていればそれなりの覚悟が出来るのに焦るとうまく出てこない。 結局普段から喋っていないので身に付かない。 「ん?あぁ…いやぁ、それならいいんだけど」 そう言って少年はそのまま自転車で走っていった。 家族にも友達にもそのことは黙っていた。 なんとなく、誰にも言いたくなかった。 「名前…聞きそびれた」 この辺りに住んでいるにしても、夏休みで帰郷しているにしても、 また近いうちに会うかもしれないな、と諦めて其の日は眠ることにした。 |